2015年6月25日木曜日

なぜ?

かつて「いつかはクラウン」というトヨタのテレビコマーシャルのキャッチコピーが流行りました。

KLEIN(クライン)という高級マウンテンバイクのフレームは当時でも完成車に組み上げると30万円以上になり(車種によっては60万円超え)、太いアルミフレームとインパクトのあるカラーリングと高品位な質感により、存在感は群を抜いていました。
万人の憧れのフレームで、「いつかはクライン」という言葉が私の周りでは流行った程でした!そんな憧れのブランドクラインはどうして衰退し 遂には消えてしまったのかを考えてみました。

私が初めてクラインを見たのは、1987年 渋谷東急ハンズでした。確か当時最上階付近にハンズの自転車売り場があり、真っ赤なMountainKleinと書かれたフレームがあったのを鮮明に覚えています。

クロモリフレームが主流の時代に こんなド派手で太いフレームあるんだ!!
とびっくりしました!その後ヤマクニに出会い、ガンウェルに出会い日本のフレームもアルミが出てる事に気づきましたが、クラインの高級感と個性は飛び抜けて印象的でした。

ツーリング用のピナクルが出る頃は、フレームロゴからMountainが消えKLEINだけになってました。

その後XCレーシング用のラスカルが発表され、またクラインの独自性を全て詰め込んだアティチュードが発表されました。さらに翌年リリースされたボロン(当時NASAやUSアーミーしか使ってなかった軍事機密技術である特殊補強材)やカーボンを補強材として使用したアドロイトの高額さに唖然としたものです!

80年代後期 BMX RIOに居た時も1991年に創業したサムズバイクでも こんな高額なバイクが良く売れるなあ〜という印象でした!日本ではバブル期にちょうど重なった事も売れた大きな要因だったと思います。

今思い返すと、魅力的だったのが
1 太いチュービングと滑らかな仕上げ
2 発色の良い高品位で質感の良い塗装
3 ミッションコントロール
4 内装ヘッドセットとBB
5 角形断面チェーンステイ
6 アティチュード、アドロイトの専用フロントフォーク
7 フレームの軽さ
8 漕ぎに対するレスポンスの良さ

上記は素晴らしいクラインのオリジナリティーの一部です。

私のような小売店の立場としては クラインは精度が高く、不良品がゼロだったのは驚くべき事実です。(当時アメリカブランドは塗装ムラやキズ、センターズレなど当たり前だったので)

上位機種のアティチュード、アドロイトにはクラインの個性と独自性が満載です!創始者ゲイリークラインさんの究極の理想を追求したままを商品化できたと言っても過言ではありません。

今では当たり前のインテグラルヘッドセットですが、クラインは90年から採用してます!発想が20年進んでます!!
しかし、フロントサスペンションが普及してきた事が災いをもたらしました。前にこのblogでも紹介しましたが、
この独自規格に対応するサスペンションが極少数しかなく、また変換アダプターも存在はしましたが、ほとんど流通しませんでした。一般的にはアティチュード、アドロイトにはサスは取り付け不可というのが常識でした。今となってはオリジナルフォークの方がサスペンションより1000倍価値がありますが、当時は大きなデメリットでした。
またピナクルやラスカルにサスペンションは取り付けはできましたが、正式にサスペンション対応ジオメトリーの車種は'94年のパルスの登場を待つことになります!クラインはフロントサスペンション時代に大きく遅れを取りました。

ここだけの話ですが、キャ◯ン◯ールのヘッドショックは、クラインの規格のパクリだと個人的に思ってます!サスペンション構造は独自ですが、ヘッドセットとステアリングコラムの構造は同じです。実際あの大きくて薄いベアリングのサイズも全く同じです!ナイショにしておいてください。

また ステムとバーが一体構造のミッションコントロールも、短いステムを好むライダーが増加したり、アップハンドルの流行で、不便を感じるクラインオーナーが多かったみたいです!
短いミッションコントロールも後に発売しましたが、3万円以上もするので敬遠されました。今思うと、高品位なアルミのステムは2万円以上したし 高品位なハンドルバーも1万円位したので、ミッションコントロールが法外な値段とは思いません。ましてウスの引き上げネジはチタニウム製だった事を考慮するとむしろ安いのでは!
またトップチューブも短いのが好まれる時代になり、クラインのジオメトリーは古さを隠せませんでした。
クラインはマウンテンバイクのライディングスタイルの変化に遅れをとっていきました。

もう一つのクラインのオリジナリティーが足を引っ張る結果になります!高級ブランドの証でもあった圧入BB。当時フィッシャー、マンティス、ファットチャンスなど圧入ではありませんがシールドベアリングがあらかじめセットされてるフレームに憧れたものです。
ところが、シマノ、サンツアーが軽量化の一環としてロープロファイル化を進めます。BBのシャフト長が125mm全後だったのに対し107mmが主流になります。クライン純正BBシャフトもリプレイス用で107mmを発売しましたが、交換するための専用工具が結構大掛かりなもので、用意できる小売店も限られました。

また魅力的なアルミ削り出しの高級パーツメーカー(シンクロス、リングル、グラフトン、クックス、クックブラザース等)も多数存在し カッコいいクランクセットが目白押しの時代でしたが、それぞれ対応するシャフト長が違ったり、チタン中空シャフトのBBも人気が高かったです。
BBシャフトの長さは多様化し107、113、116、118、120、122.5、125、128、130....と各社バラバラでした。
クラインはそこまでのBBのシャフトは用意できず、付けたいクランクを諦めなければならないユーザーも多かったようです。
次第にクライン離れするユーザーが増え 94年あたりから、販売台数が減少していった印象があります!

それに追い打ちをかけるように、KLEINの工場から何かしらの有害物質が流出している事で摘発され、かなり高額な罰金を支払いそれをきっかけに経営が悪化していったという噂もありました。

'94年ドイツ人のクラインディストリビューター、マークストーク氏の提案で時代のニーズにマッチしたサスペンションジオメトリーのパルスをリリースしました。よせばいいのに初期ロットはシートポストのバインディングシステムを独自に開発し話題になりましたが、クランプする力が弱くリコールになりました。
クラインはますます資金的に窮地に追い込まれ、'95年トレックに買収されるに至ったと考えられます。

ゲーリークラインさんは、真の開発者であり経営的な事から解放され、十分な資金も手に入れ、当時はいいカタチに収まったのかなと思ってました。しかしすぐに大企業の合理化の波に飲み込まれ、特徴の失われたクラインは次第に輝きを失っていきました。結局トレックにとって必要のないブランドになったという結論ですね。悲しいです。

早めにKLEINの試乗車を組み上げなくては!!まずはピナクル。組み上がったらブログで紹介します。